讃岐獅子頭の製作

上小原獅子組 製作中の讃岐獅子頭 2022年9月6日撮影

現在、上小原獅子組では新しい獅子頭を職人さんに作ってもらっています。

上の写真は製作中の獅子頭を撮影したもの。獅子頭の製作に立ち会える機会なんてそうそうないので、今回は獅子頭の製作に着目してみました。

まずは香川県の獅子頭を知らない方のために讃岐獅子頭について解説します。

讃岐獅子頭とは

獅子頭は奈良時代前期の伎楽面が発祥とされ、神仏の祭礼に登場する全国的にも有名な祭具です。香川県の獅子頭はそこから独自に進化を遂げ、讃岐獅子頭として香川県の伝統的工芸品に指定されています。

県内に現存する最古の獅子頭は室町時代のものですが、今の形の獅子頭が作られるようになったのは明治初期頃とされています。

張子と乾漆

讃岐獅子頭の特徴は軽くて丈夫であること。

その秘密は張子乾漆という製法にあります。全国的に獅子頭は木彫りが多いですが、香川県内で木彫りの獅子頭はごく一部地域にしか見られず、ほとんどが「紙」で作られています。

軽くて扱いやすい獅子頭は獅子舞の表現の幅を広げます。また丈夫であることで激しく勇壮な舞にも耐えられます。讃岐獅子頭は舞い手と共に古くから試行錯誤を繰り返してこられた職人さんの業の結晶です。

張子

木や粘土などで作った型に紙を貼りつけ、型抜きして成形する造形技法。内部が空洞になるため軽くなります。張子は「張りぼて」と呼ばれたりもしますが、讃岐獅子頭は張りぼてではなく、頑丈に作られています。

乾漆

ウルシの樹液から精製される漆を乾燥させて固める漆工芸の技法。何層にも塗り重ねられた漆は強度を高めると共に、艶やかで美しい光沢を生み出します。

唐獅子と猫獅子

香川県内には800組を超える獅子組があり、それを超える数の獅子頭がありますが、同じ顔の獅子を探すのは困難と言えるほどの多様性があり、それが讃岐獅子頭の特徴のひとつとなっています。また、讃岐獅子頭は大きく分けると2種類あります。

唐獅子(塗り獅子)

外見が全国的によく見られる獅子頭と近く、赤や黒の漆と金箔などで装飾された獅子頭です。

獅子頭の中の紐を操ることで、耳に生やした毛を上下させたり、口を開閉させたりできます。

型は東讃型(高松型)、西讃型(丸亀型)など地域や作る職人さんによって大きく異なります。

最近は顔の塗り分けを変えたり、毛の色を変えたりと種類が増えてきています。

讃岐獅子頭 唐獅子(塗り獅子) 上小原獅子組

猫獅子(毛獅子)

唐獅子より後に広まった顔全体が毛に覆われた獅子頭です。

耳の上下や口の開閉だけでなく血走った目玉が左右に動きます。上顎と下顎にそれぞれ鋭い牙がついており、歯はギザギザ。唐獅子よりも獣っぽさがあり、猫のような髭も生えています。縞模様の眉毛も特徴的です。

昔は唐獅子でしたが、昭和の頃に猫獅子に変えた獅子組も多いようです。

讃岐獅子頭 猫獅子(毛獅子) 上小原獅子組

製作中の讃岐獅子頭

上小原獅子組は善通寺市与北町にある「工房 蓮心」で獅子頭を作ってもらっています。

工房の職人である秋山賢二氏は、讃岐獅子頭の伝統工芸士である松下芳夫氏に師事し、その業を受け継いでおられます。そして秋山氏自身も2022年2月に香川県より伝統工芸士に認定されました。

製作を依頼したのは2019年。その後少しずつ製作を進めてもらい、徐々に完成に近づきつつあります。

以前のブログ記事(獅子頭の製作現場より)の時は木型ができたところでした。上小原獅子組が使っている獅子頭の大きさに合わせて型から作ってもらっています。

その後も何度か工房に伺い、獅子頭が作られていく様子を見てきました。

2022年3月26日

この時は、木型から抜かれ、木枠・底板(顎板)・取っ手(にぎり)が付けられています。取っ手には松下氏から受け継いだ焼印が施されています。

作ってもらっているのは猫獅子ですが、顔の横に渦巻模様があります。猫獅子は顔全体が毛に覆われ装飾が少ないため地味な印象になることがあるのですが、部分的に唐獅子のように装飾を入れることで、派手な印象を与えられます。猫獅子の艶やかな毛の質感と唐獅子の漆の光沢の両方を兼ね備えた、良いとこ取りの獅子頭です。

2022年9月6日

この時は、上顎に鋭い牙と歯が付けられ、それと噛み合うように下顎ができています。上顎の歯と下顎の歯の噛み合わせが悪いと、口の開閉によって破損してしまうのでとても繊細な仕事です。鼻の穴も開き、完成後の雰囲気を感じられるようになりました。

獅子頭の内部には支柱(耳の元)や目玉を動かすための軸木も取り付けられ、赤漆が塗られています。

上小原獅子組 製作中の讃岐獅子頭 下顎 2022年9月6日撮影

これは獅子頭の下顎です。

下顎にも渦巻模様の装飾が入っていますが、これは獅子組のみんなで投票をして入れてもらうことにしました。派手さが増してますね。

顎の中央に穴が空いていますが、そこに紐を通して操ることで口の開閉ができるようになります。

上小原獅子組が今使っている獅子頭は平成元年(1989)に作られたもの。今回33年ぶりの新調ということになります。貴重な機会に立ち会えていることを嬉しく思います。

獅子頭作りは秋祭り前のこの時期(8~9月)が最も忙しいようです。獅子頭の完成が楽しみです。

讃岐獅子頭の製作工程

今までに職人さんにお聞きした内容や史料をもとに讃岐獅子頭の作り方をまとめてみました。

型作り
まずは粘土瓦(粘土で造形して焼いた瓦)で型を作ります。木彫りで型を作ることもあります。一度作った型は再利用できますが、獅子頭の形や大きさは千差万別で、こだわりを持っている獅子組も多く、1頭のために型を起こすこともあります。本体と合わせて下顎も同様に作っていきます。
下地貼り
油を塗った型に和紙を30枚ほど貼り重ねていきます。使う和紙や糊、貼り方は職人さんごとにこだわりがあるようです。張子らしからぬ頑丈さを生み出すには欠かせない作業です。昔の和紙の方が繊維が強いため、古い帳簿などを使いますが、最近は良質な和紙が少なくなってきているそうです。
型抜き
貼り重ねた和紙が乾いて固くなったら、型から剥がします。そのままでは型から抜けないため、切れ込みを入れて抜き、後からまた和紙を貼って繋ぎ合わせます。
木枠などの取り付け
木材で作った木枠・底板(顎板)・取っ手(にぎり)・支柱(耳の元)を取り付けます。木の種類は杉やヒノキなどが多いようです。猫獅子の場合は牙や歯、目玉を動かすための軸木も取り付けます。取り付けたらまた和紙を重ね貼りして補強します。
下地塗り
砥の粉(石を粉末状にしたもの)とニカワ(天然の接着剤)を湯で溶き、それを全体に塗ります。乾くと木のヘラや水ペーパーを使って滑らかにします。これを数回繰り返して表面の凸凹がない状態にすると同時に強度を高めていきます。下地塗りには砥の粉ではなく胡粉(貝殻を粉末状にしたもの)を使ったり、最近ではサーフェイサー(下地塗料)を使っている職人さんもいるようです。
漆塗り
漆を全体に塗って、湿度を調整したムロの中でゆっくり乾かします。乾いたら「研ぎ」を入れ、また漆を塗っていきます。研ぎとは漆の表面に微細な溝を作り、次に塗る漆を定着しやすくするための作業で、これをしないと漆が剥がれやすくなり、強度が低下します。漆は扱いが難しく高価であるため、最近ではカシュー(合成樹脂塗料)を使っている職人さんもいるようです。
箔置き・彩色
下地の漆を塗った後、金箔や銀箔などを必要箇所に置き、顔を赤や黒に彩色します。その後に縁取りをして上塗りの漆が塗られ、最終的には5~6層の漆が塗られます。漆は塗り重ねることで深みのある光沢が生まれます。ちなみに獅子頭が赤く塗られることが多いのは赤色塗料の水銀朱に防腐・防虫の効果があり、厄除けの力があると信じられているからです。
目の取り付け
唐獅子の場合は、丸みを帯びた楕円形の真鍮の板に瞳を描いて取り付けます。猫獅子の場合は、獅子頭を傾けることで目玉が左右に動く仕掛けが施されます。目玉はガラス・アクリルなどで作られ、卵を縦半分に切ったような形をしています。白目の部分は白綿に赤木綿糸などを用いて血走った目を表現します。まれに唐獅子でも目玉が動くものがあるようです。
毛植え(猫獅子の場合)
顔全面に3cmほどに切った毛を貼り重ねていきます。ここで使うのは馬のたてがみの毛。眉に植える毛は部位によって使い分けたりもするようです。
髪植え
頭髪(たてがみ)を植えていきます。猫獅子の場合は髭も植えます。ここで使うのは馬の尻尾の毛。毛の色は様々で脱色したり染めたりして表現します。
耳・下顎の取り付け
馬の尻尾の毛を束ねた耳や別に作った下顎を紐と共に本体に取り付けます。下顎は皮で本体に繋ぎます。これにより紐を指で操ることで、耳と下顎が上下に動くようになります。
仕上げ
獅子頭を実際に動かしてみて、耳・下顎・目玉の可動域などを調整します。香川県の獅子舞は獅子組ごとに舞い方が異なるため、最適な動き方を模索し、調整して仕上げられます。できて間もない獅子頭はまだ水分を含んでいます。その水分が抜けるとより軽くて丈夫な獅子頭になります。水分が完全に抜けるまで2~3年はかかるそうです。

高価な獅子頭

讃岐獅子頭の製作は工程が多く、すべて手作業になるため時間を要します。1頭作るだけでも最短で2〜3ヶ月。型から作る場合はさらに時間がかかるようです。

素材にしても天然物がほとんど。例えば馬の毛についてはモンゴルなど寒い地方の馬の毛を厳選して使っているようです。何でも日本の馬の毛では荒すぎ、人毛では細すぎて絡まってしまうとか。ナイロンなどの化学繊維で作ることもできますが、時間が経てば不具合が出てくるそうです。何年もずっと使い続けることを考えれば、自然素材が一番なのでしょう。

職人さんは常により良い獅子頭を生み出すべく、今もなお試行錯誤を続けておられます。

参考史料

  • 鋤雲4
    昭和36年(1961) 香川県明善短期大学/編 
    P23〜27
  • この道・この人
    昭和54年(1979) 荒木計雄/著 
    P182〜187
  • 香川県の諸職
    平成元年(1989) 瀬戸内海歴史民俗資料館/編 
    P120〜125、191、237、263
  • 全国伝統的工芸品総覧 平成18年度版
    平成19年(2007) 伝統的工芸品産業振興協会/編  
    P287

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。