獅子頭の保管
獅子頭を新調すると考えなくてはいけないことがあります。
そう、どのように保管するかです。
獅子頭の保管方法
完成したばかりの獅子頭は美しいですが、保管方法が悪ければ長持ちしません。どのように保管するのが良いのでしょうか?
獅子頭の保管方法について調べてみました。
獅子頭を保管する時のポイント
1. 高温多湿を避ける
高温多湿の環境は獅子頭にとってよくありません。状況によってはカビやサビが発生します。
また表面がシワになったり変形することもあるようです。
2. 乾燥させすぎない
木や漆が使われている獅子頭は乾燥させすぎるとひび割れや変形の原因になります。
文化庁の基準によると温度22℃、湿度50~60%が好ましいとされています。
3. 急激な温度変化を避ける
急激な温度変化は劣化を早めます。室内でもエアコンや暖房器具を使う部屋で保管するのはよくありません。
温度と湿度が常に一定に保たれていることが理想とされています。
4. 光を当てない
漆にとって太陽光に含まれる紫外線は天敵です。
直射日光が当たる場所では漆は劣化し変色(日焼け)してしまいます。人間の肌と同じですね。
紫外線は太陽光に限らず蛍光灯などにもわずかに含まれているため、暗所に保管するのが良いとされています。
5. 台の上に置く
讃岐獅子頭のたてがみや耳の毛は長く、そのまま地面に置くと毛の先が曲がります。その状態で保管すると毛がカールしてしまい人間のように寝グセがついてしまいます。
台の上に獅子頭を置き、毛が下につかないように保管するのが良いようです。
新しい獅子頭は要注意
完成したばかりの讃岐獅子頭は水分を含んでいます。そのためプラスチックなどの密閉容器で保管すると水分が抜けるのを妨げるだけでなく、湿気によってカビやサビが発生しやすくなるそうです。また漆も塗られた直後は柔らかい状態です。傷ついたり変色しやすくなっているため扱いには注意したいところです。
讃岐獅子頭は2〜3年すると全体的に水分が抜け、硬く締まると同時に軽くなります。そして漆は一定の湿度のもとで数10年間は硬化し続けると言われており、徐々に頑丈になっていくようです。
風通しの良い室内に保管
博物館にあるような工芸品は空調設備などによって24時間365日徹底管理されていますが、簡単に用意できる環境ではありません。そんな時は風通しの良い室内で保管するのが良さそうです。
風通しを良くするのは熱や湿気が籠るのを防ぐため。室内に保管するのは外気温による温度や湿度の変化を軽減するためです。
室内でも直射日光に当たらず冷暖房を使わない部屋が適しています。
段ボール箱で保管?
獅子頭は段ボール箱に入れて保管するのが良いという話を聞きます。確かに段ボールは風通しが良いです。紫外線や埃からも守れます。手頃な箱が見つからない場合は段ボール箱で十分でしょう。
ただし段ボール箱の置き場所には注意が必要かもしれません。素材が紙なので結露の多い窓際や雨漏りする可能性のある場所では危険です。必要以上に湿気を吸い、逆効果になる可能性もあります。また地震や火災などの災害から守るという点では少し不安な気もします。
上小原獅子組でも当初は段ボール箱での保管を検討していたのですが、より安全性を考慮し桐箱で保管することにしました。
桐箱で保管
タンスや金庫の内装など様々な場面で使われる桐箱。獅子頭を保管する箱としても最適です。
桐箱の特徴
1. 軽い
桐は日本の木材の中で最も軽い木材。持ち運びも楽です。
2. 柔らかい
桐は柔らかくクッション性があります。外部からの衝撃を和らげます。
3. 虫がつかない
桐にはタンニン、パウロニン、セサミンなどの成分が含まれており虫を寄せ付けません。
抗菌効果があり腐りにくいため長期間の保管にも向いています。
4. 湿気に強い
桐箱は恒湿作用(内部の湿度を一定に保つこと)に優れています。
湿度が高い時は桐が水分を吸って機密性が高まり、内部を湿気から防ぎます。湿度が低い時は桐が水分を放出して内部の乾燥を防ぎます。
5. 熱に強い
桐は空気を多く含むため熱が伝わりにくく、内部の急激な温度変化を和らげます。
また火がつきにくく、仮に燃えても割れずに表面を炭化させることで内部を火災から守ります。
6. 縁起が良い
桐は皇室の紋に使われるほど縁起の良いものです。白く美しい木目は神聖さも感じさせます。
桐箱を作ろう
様々な長所がある桐箱。
その最大の欠点はお値段。オーダーメイドで注文するとどうしても高額になります。ということでDIYすることにしました。
まずは獅子頭を採寸し、箱の寸法を決めます。
次に設計。桐箱は木組みで作ることが多いですが作業が大変なので、切り出した板をビスで留めるだけの簡素なものにしました。
フタは美術工芸品の箱によく見られる四方桟。箱の中には獅子頭を乗せる台を置いて固定します。
必要な材料を書き出して、ホームセンターで桐材や金具などの材料を購入。
あとは加工して組み立てます。
獅子頭保管箱の完成
完成した箱がこちらです。
間口60cm、奥行き40cm、高さ40cmの桐箱です。
獅子頭の台
獅子頭の毛の先が曲がってしまわないよう、台の高さを調整しました。
また獅子頭の髭が箱の内壁に当たって折れてしまうのを防ぐため、台には獅子頭を固定する保護板を取り付けました。
フェルト生地
獅子頭が接触する部分にはフェルト生地を貼り、キズが付かないよう配慮しています。
補強金具
獅子舞道具の箱には金属製のものが多く、箱の摩耗を防ぐために隅金を付けました。強度も高めています。
滑り止めマット
箱を積み重ねなければいけない場合もあります。地震などで横滑りしないよう箱の底には滑り止めマットを貼りました。
持ち手
持ち運びしやすいよう、箱の横には釻を取り付けました。
墨書き
中身が獅子頭であることがわかるように顔料マーカーで墨書きしました。
寄付者銘板
箱のフタの裏はパネル化してご寄付をいただいた方を顕彰しています。
先人たちの知恵
昔は現代のような空調設備や保管技術はありませんでした。しかし先人たちは奈良時代にはすでに工芸品を長く保管する術を持っていました。代表的なのが東大寺の正倉院。高床式で地面からの湿気を防ぎ、また外壁の木材が温度や湿度の変化を和らげます。
これに近いのが寺社の木造建築です。お寺や神社などにはよく工芸品が保管されていますが、保管環境の面からしても優れていると言えます。讃岐の獅子頭も昔は神社が所有する祭具で神社に保管されていたようです。もし寺社に保管できるなら保管環境としては良いのかもしれません。
木の箱に入れて保管する方法も昔からずっと行われてきたことで、多くの工芸品を現代に遺しています。
最近は冷暖房を使うことを前提とした高気密住宅が増え、また保管容器もプラスチック製など便利なものが増えていますが、良いことばかりではありません。時には先人たちの知恵をお借りしながら、獅子にとって寝心地の良い環境を準備してあげたいところです。