コロナ禍の獅子舞
3年ぶりに山階の春日神社に鉦の音が響き渡りました。
3年連続の秋祭り縮小
私たちの集落では獅子舞は神社から獅子組への奉納依頼によって行われます。
しかし今年の8月21日、獅子組のもとに届いたのは中止の連絡でした。
神社が祭りの内容を決めるのは7〜8月。ちょうどこの頃は香川県でも感染者が日増しに増え続けていた時でした。昨年と比較しても感染者数は桁違いに多く、中止もやむなしでした。
しかしその一方で阿波おどりをはじめ大規模な夏祭りが行われている不思議な状況でした。
神社管理者との交渉
「確かに例年通りの獅子舞奉納は難しいかもしれない。しかし条件付きで奉納することはできないだろうか?」私たちはそう考えました。
そして最終的には神社の管理人と交渉し、神社からの依頼ではなく、獅子組の自主的な活動という形で獅子舞奉納を認めてもらうことができました。
詳細な奉納の様子については、活動記録にて公開しておりますので、ぜひご覧ください。
コロナ禍での獅子舞
演舞中の感染リスクは高い?
香川県の獅子舞の多くは油単に2人が入って舞うため、演者同士の感染リスクを考えがちです。
しかし油単の長さは2m以上。演者がそれほど密接することはありません。油単も被っているだけで下から換気されているため、感染リスクはそこまで高くないのかもしれません。
当日の体温チェック、マスク着用、手指消毒を徹底すれば演舞中の感染リスクは十分減らせるのではないでしょうか。
獅子舞における感染リスク
獅子舞における感染リスクは演舞中ではなく、それ以外のところにあると考えます。それは祭り前後の地域交流です。
私たちの集落では獅子舞奉納を神社が依頼する場合、氏子総代がすべての氏子世帯に通達し、集落全体が獅子舞を迎え入れる準備をします。
特に当屋は約3週間に渡り獅子舞の稽古を行う拠点となり、集落に住むたくさんの人々が交流することになります。
数日で終わる大衆イベントと違い、祭りでは飲食を伴う地域ぐるみの付き合いが数週間続きます。感染者が出た場合の影響は獅子組のみに収まらず集落全体に及びます。
「地域繁栄を願う祭りで、地域を巻き込んだ集団感染を発生させるわけにはいかない」そういった経緯で獅子舞の中止を決定したところも多いのではないでしょうか。
私たちの地域にはご年配の方がたくさんおられます。基礎疾患を持たれている方もいます。そのような中、神社側としても苦渋の決断だったのではないかと思います。
獅子舞をしないリスク
獅子舞には確かに感染リスクが伴います。しかし獅子舞をしないことによるリスクもあるかもしれません。
地域コミュニティの弱体化
獅子舞を運営する獅子組は自治会と同様に地域コミュニティのひとつです。現代では「人はひとりでは生きていけない」ことを忘れがちですが、それは整備されたインフラや充実した社会保障があるから。
しかしそれはずっと続くとは限りません。大規模災害や少子高齢化によって破綻する可能性もあります。獅子舞をきっかけとして近隣住民と助け合える関係を作っておくことは有意義なことだと思うのです。
伝統文化の衰退
獅子舞をしない期間が長くなればなるほど芸の腕は落ちていきます。本来の型が崩れていくことも考えられます。後継者を育てる時間もなくなっていきます。
香川県の獅子舞は獅子組ごとに異なり、その多くはその集落にのみ受け継がれてきた貴重な伝統文化です。受け継げる人も受け継げる期間も限られている中、獅子舞を休止することは、それがほんの数年でも伝統文化の衰退へとつながりかねません。
子どもの成長機会の損失
感受性が豊かな子どもにとって、香川県の派手な獅子舞は強く心に残ります。特に獅子舞の太鼓を打ったという経験は一生の思い出になります。子どもの頃に芸能や伝統文化に触れ、心を育てるのは情操教育としても良いことです。
小学2年生で太鼓を打つはずだった子は、祭りも獅子舞も知らないまま4年生になりました。子どもが成長できる機会というのは限られています。
コロナ禍の中で獅子舞をする意味
科学技術の発展した現代において「獅子舞には病魔退散の力があるからウイルスに感染しない」とは言えません。しかし私たちの祖先が古くから信じて続けてきたことを完全に否定してしまうのも違う気がします。
獅子舞を見ると楽しくなる、元気になると言ってくれる人がいます。応援してくれる人がいるだけでこんな状況でも獅子舞を続けてみようと思えます。
最近は暗いニュースが多く気分が落ち込みがちです。そんな中で「自分たちも含め少しでも地域に明るいニュースを届けたい」今回はそんな気持ちで獅子を遣いました。そして来年こそは誰もが気兼ねなく獅子舞を楽しめる日が来ることを願っています。
獅子舞におけるコロナ対策
最後に上小原獅子組が実施したコロナ対策をご紹介しておきます。
上小原獅子組のコロナ対策
情報収集
日々変化する感染状況や感染対策の情報を常に集めていました。コロナ禍の中で獅子舞をしたことがある獅子組の情報も参考にしました。
インターネットの活用
獅子組メンバー同士の打ち合わせは通信アプリで行い、集合するのは獅子舞奉納を行う当日のみとしました。
自主練習できる環境づくり
ヨナラシ(獅子舞の稽古)は行わず、指南書を作成して過去の演舞動画などを参考に各自練習できる環境を整えました。
事前告知なし
観覧者を含めた人数管理のため、獅子舞を行う日時などの事前告知は行いませんでした。
自主奉納
神社からの依頼ではなく獅子組の自主的な活動とし、集落の方々との交流はできるだけ避けました。また職業の関係で参加が難しい人もいます。獅子舞奉納の参加は強制せず、獅子組メンバー各自の判断で任意参加としました。
大統(当番獅子)のみ奉納
通常であれば複数組で獅子舞を行うところ、結果的にですが大統(当番獅子)のみの獅子舞となりました。
太鼓打ちは大人が代行
できれば子どもに打たせてあげたかったのですが、稽古時間の問題もありほとんど大人が代行しました。
当日の感染対策
当日はマスクを着用し、体温チェックや演舞前の手指消毒などを行いました。
演舞時の感染対策
鳴り物を配置する間隔を広めにとり、演者同士の距離を確保しました。また全体的に演舞時間を短縮しました。
演舞の様子を動画配信
獅子舞奉納の様子を動画撮影し、動画配信サイトで閲覧できるようにします。集落の回覧板でも報告予定です。
参考史料
- 香川の民俗 第82号
令和3年(2021) 大西紘一/編
P8〜13