神社の社号・神号・通称

多度津町山階・春日神社 社号標

みなさんは近所の神社を何と呼んでいますか?
…神社、…宮、…さん、など呼び方はさまざま。
神社の社号を中心にまとめました。
春日神社と春日大明神の違いだけ知りたい方はこちら。

社号とは?

社号とは神社名の後ろにつく称号のことです。…神社、…宮などいくつかの種類があります。


これらにはどんな意味があるのでしょうか? そもそも神社とは何でしょうか?


まずは文字の由来から考察してみます。

神、社、宮の由来

社号によく使われる文字には「神」「社」「宮」などがあります。

カミ=自然

「神」は礻・示(しめすへん)に「申」と書きます。「示」は祭壇の形から生まれた象形文字で、「申」は伸びる稲妻を表しています。稲妻とは雷(神鳴り)です。人智を超えた自然の力を人々は「神」として崇めてきました。

ヤシロ=場所

「社」は土地の神を祀ることを表す文字です。ヤシロの語源は「屋代」で、建屋のための土地や代替家屋のような意味があります。現在は建物を示すことが多いですが、本来は神様の依代ヨリシロとなる神聖な場所のことです。

ミヤ=建物

「宮」は部屋が連なった形から生まれた象形文字です。ミヤの語源は「御屋」であり、神様や天皇が住む「建物」を示します。建築技術の発展により、神様にも住居が必要という考えから生まれました。

文字の由来については諸説ありますが、




神(自然)→社(場所)→宮(建物)と少しずつ実体化していることがわかります。

神社イメージ

神社と社号の意味

神様は実体のない霊的な存在です。古代人は大きな木や岩などに神霊が宿ると考え、自然に対して祭祀をしていました。それが社(神聖な場所)に仮設の祭壇を設けて神様を招くようになり、やがて宮(常設の建物)に御神体を設けて祭祀をするようになったのが神社です。

「神社」や「宮」などの社号の違いは、祭祀のあり方が変化していく中で生まれた表現の違いであり、本質的には同じものです。ただ、社号を神社の性質を表す指標として扱った時代があり、それが現代の社号に影響を与えています。

明治時代の社号と社格

近世まで神社の社号に基準はありませんでした。しかし明治時代に国が神社を管理するようになってから、神社に一定の基準が定められ、社号も基準に沿って整理統一されました。また、同時に「社格」という格付けによって神社がランク分けされ、待遇に差がつけられました。

戦後に神社は国の管理から外れ、社格も廃止されましたが、社号は今も多くの神社でそのまま受け継がれています。

社号も社格もない神社

社号や社格は神社を区別して管理するために定められたものです。しかしその対象外となった神社がひとつだけあります。伊勢の神宮です。よく伊勢神宮と呼ばれますが、正式名称は「神宮」であり、社号という概念がありません。また古くから最高位の神社であり、格付けの必要もない別格の神社とされています。

神宮(三重県伊勢市)
神宮(三重県伊勢市)

社号の種類

神社でよく使われている社号は
「大神宮」「神宮」「宮」「大社」「神社」「社」の6種類です。

大神宮ダイジングウ(太神宮)

「大神宮」とは、伊勢の神宮を分祀した神社によく見られる社号です。分祀とは神社の神霊を分け、別の神社を建てて祀ること。会社に例えると神宮が本社で、大神宮は支社です。お伊勢参りが遠くてできない方のために日本各地にあり、「…のお伊勢さま」と呼ばれることが多いです。大神宮は神宮と同じ天照大御神アマテラスオオミカミを祀っていますが、天照大御神を祀る神社がすべて大神宮というわけではありません。

  • 東京大神宮、山口大神宮、新潟大神宮など
東京大神宮(東京都千代田区)
東京大神宮(東京都千代田区)

神宮ジングウ

「神宮」とは、天皇ゆかりの神社古代から神宮と呼ばれている神社の社号です。明治以降、天皇や皇祖(天皇の祖先神)を祀る一部の神社がこの社号に変更され、神宮号は天皇が認めた神社のみと定められていました。この制度は戦後に廃止されましたが、現在でも神社本庁の傘下においては許可が必要な特別な社号です。天皇にゆかりのある神社がすべて神宮号ではなく、全国に24社しかありません。「…神宮」でも天神宮(天神+宮)や龍神宮(龍神+宮)のように神宮号ではない神社もあります。

  • 天皇を祀る神社 
    平安神宮、明治神宮など
  • 皇祖を祀る神社 
    霧島神宮、鹿児島神宮など
  • 古代から神宮の神社 
    鹿島神宮、香取神宮など
平安神宮(京都府京都市)
平安神宮(京都府京都市)

グウ・ミヤ

「宮」とは、皇室ゆかりの神社特別な由緒のある神社によく見られる社号です。明治以降、皇族を祀る一部の神社がこの社号に変更されました。今では応神天皇を祀る八幡宮だけではなく、菅原道真を祀る天満宮、徳川家康を祀る東照宮などの神社にも慣習的にこの社号が使われています。戦後に「神社」から「宮」に変更した(戻した)神社もあります。

  • 皇室を祀る神社 
    八幡宮、香椎宮、鎌倉宮など
  • 特別な由緒のある神社 
    天満宮、東照宮、金刀比羅宮など
鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)
鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)

大社タイシャ

「大社」とは、古くから地域の中心となっている神社によく見られる社号です。明治から戦前までは大社と言えば出雲大社イヅモオオヤシロのことでした。しかし戦後に社格制度が廃止された後、官幣大社などの高い社格を有していた一部の神社がこの社号に変更したことで数が増えました。大社は分祀された神社の総本社など、広く崇敬を集める神社によく使われています。

  • 春日大社、諏訪大社、伏見稲荷大社など
奈良・春日大社
春日大社(奈良県奈良市)

神社ジンジャ

「神社」とは、一般的な神社の社号です。明治時代、多くの神社がこの社号に変更されました。春日大社、伏見稲荷大社、太宰府天満宮のような有名な神社も戦前までは「神社」でした。古代から見られる社号でもあり、由緒のある規模の大きな神社でもこの社号を使っていることはよくあります。

  • 厳島神社、靖国神社、氷川神社など
厳島神社(広島県廿日市市)
厳島神社(広島県廿日市市)

シャ

「社」とは、総本社から分祀された神社など、規模の小さな神社によく見られる社号です。摂社や末社として大きな神社の境内に祀られていることも多く、さらに小さな神社は「…祠」と呼ばれることもあります。その一方で、由緒のある規模の大きな「社」もわずかにあります。

  • 神明社、天神社、稲荷社など
小牧神明社(愛知県小牧市)
小牧神明社(愛知県小牧市)

「宮」は「神社」より格上?

社号は社格を示す称号と紹介されることがあります。本当にそうでしょうか?




例えば、「宮」は「神社」よりも格上の社号でしょうか?

確かに戦前は一部の神社が「宮」として優遇されたかもしれません。しかし「宮」より社格の高い「神社」もたくさんありました。そもそも社号で格を示せるのであれば、社格という基準は要らなかったはずです。

では「宮」が「神社」より格上とされがちなのはなぜでしょうか?




それは「宮」が希少で、社格の高い神社の割合が多かったからと思われます。

下の表は社格制度があった頃の香川県の神社数を表したものです。


香川県に「神宮」や「大社」はないため、「宮・大神宮」と「神社・社」の数を比べています。




社格の高さは、国幣社>県社>郷社>村社>無社格の順です。

社格\社号宮(太神宮)神社(社)合計
国幣社112
県社11415
郷社17576
村社1247248
無社格621262132
合計1024632473
香川県の神社数(『香川県神社誌』昭和13年より)

「神社」の2463社に対し「宮」はわずか10社のみ。うち社格を有していたのは4社で、6社は無社格でした。「宮」は「神社」より社格を有する神社の割合は高めですが、無社格の神社の方が多かったことがわかります。

現在の県内の正確な神社数は不明ですが、法人登記されている神社数を調べたところ、「宮」は25社に増えていました。社格を有していた一部の神社が、戦後に社号を「宮」に変更したようです。このような経緯も影響し、「宮」の方が格式が高いという印象が形成されたのかもしれません。

現代の社号はかつての社格の影響を受けています。「神宮」や「大社」に大きな神社が多いというような傾向もあるでしょう。しかし、例外も多く「社号が◯◯だから格上」などと決められるものではありません。少なくとも社格制度がない現代において、社号は格(上下関係)を示すものではないと思います。

神社が大小問わず全国にあるのは、神徳(神様の力)は同じとされているからです。神社によって由緒や規模に違いはありますが、どの神社にも等しく崇敬の心を持ちたいものです。

神号と社号

神号イメージ 天岩戸神話の天照大御神

明治時代に社号が整理統一されるまでは「神号」が社号のように使われていました。神号とは神様の名前の後ろにつける尊称のこと。人の名前に◯◯様や◯◯先生とつけるようなものです。つまり、一部の神社では神様の名前に尊称をつけて社号としていたのです。

江戸末期までは神仏習合シンブツシュウゴウと言われる時代で、神社と寺院が一緒になっていました。そして神様は仏様でもあると考えられていました。そのような神様には寺院側から特別な神号(仏様としての位など)が与えられ、それを社号としていた神社がたくさんありました。

しかし明治元年(1868)の神仏分離令により、神社と寺院は分けられます。仏教的な神号は廃止され、整理統一された社号に変更されました。社号の変更は神社から寺院の要素を排除するためでもあったようです。

現代では神号を社号としている神社は少ないですが、その名残がある神社はたくさんあります。

皇大神コウタイシン(皇太神)

皇大神や皇太神は神様に対する最高の尊称です。例えば、「天照皇大神」は天照大御神アマテラスオオミカミを祀る神社でよく使われます。社号にしている神社は少ないですが、皇大神社など社名になっている神社はたくさんあります。

大神ダイジン

大神は広く一般的に使われる神様の尊称です。「ダイシン」「オオカミ」「オオミカミ」と読み方は様々ですが、社号にしている神社がわずかにあります。また大神神社など社名になっている神社もあります。

明神ミョウジン(大明神)

明神や大明神は神仏習合時代によく使われていた神様の尊称です。明治初頭に仏教的な神号とみなされ、社号として使う神社は少なくなりましたが、別称として使う神社は多く、稲荷大明神春日大明神などが有名です。明神ミョウジンとよく似た神号に神明シンメイがありますが別物です。明神は神様全般に使われますが、神明は天照大御神アマテラスオオミカミに使われます。

権現ゴンゲン(大権現)

権現や大権現は神仏習合の神様の尊称です。権現とは仏様の権化という意味で仏教色の強い神号のため、明治初頭に使用を禁止され、社号にはほとんど使われなくなりました。現在は神社の別称として残っていたり、権現社など社名として残っています。

菩薩ボサツ(大菩薩)

菩薩や大菩薩は仏様の位のひとつで、如来の下に位置する称号です。明治初頭に社号としての使用を禁止されたため、現在はほとんど使われていません。しかし、神仏習合時代に八幡神に与えられていた「八幡大菩薩」は全国的に広まり、一部では正八幡とも呼ばれ、それが社名として残っている神社があります。

明王ミョウオウ

明王は仏様の位のひとつで、菩薩の下に位置する称号です。有名なのは不動明王で、神仏習合時代には神社で仏像として祀られ、社号としている神社もありました。明治初頭に神社で仏像を祀ることは禁止されましたが、仏像が境内または境外に残されて存続し、社名として残っている例があります。

山王サンノウ

山王は大山咋神オオヤマクイノカミなどの山の神様に使われる尊称です。比叡山(日枝山)のふもとに鎮座する日吉ヒヨシ大社はかつては日吉ヒエ山王」と呼ばれ、古くから信仰されています。日吉大社は全国各地の日吉神社・日枝神社・山王神社の総本社であり、これらの神社では今でも別称としてよく使われています。

天王テンノウ

天王は素戔嗚尊スサノオノミコトによく使われる尊称です。その場合の正式な神号は牛頭ゴズ天王」で祇園精舎(古代インドの寺院)の守護神や薬師如来の権化とされていたため、明治初頭に社号としての使用は禁止されました。牛頭天王は疫病除けの神様であるため、疫病が流行りがちだった夏に祭りをする神社が多く見られます。八坂神社の祇園祭津島神社の天王祭が有名で、別称としてよく使われています。

天神テンジン

天神は菅原道真スガワラノミチザネによく使われる尊称です。その場合の正式な神号は天満大自在天神テンマンダイジザイテンジン。社号としている神社は少ないですが、天満宮天神社など社名としてはよく使われています。天神という神号は地祇チギ(地の神様)と区別するために使われることもあります。

テン

天は仏様の位のひとつで、明王の下に位置する称号です。多くは古代インドの神様が仏教の守護神として日本に入ってきたもので、恵比寿天弁財天(弁天)大黒天毘沙門天などが有名です。社号としている神社は少ないですが、恵比寿天は神仏習合時代に蛭子神ヒルコノカミ事代主神コトシロヌシノカミといった日本の神様と同一視され、蛭子エビス神社として全国各地にあります。

三十番神サンジュウバンシン

三十番神とは日替わりで仏様や人々を守るとされた神様の総称です。明治初頭に神号の廃止だけではなくお祀りすることも禁止されましたが、現在でもわずかに見られます。

神号だけでもたくさん種類があります。さらに神様のお名前の数ともなれば、それこそ八百万ヤオヨロズなのでしょう。

神社の通称

神社イメージ(神宮の巫女)

神社名には正式名称通称があります。


例えば伊勢の神宮の場合、正式名称が「神宮」で、通称が「伊勢神宮」です。

正式名称は神社に確認しないとわかりませんが、主に宗教法人として登記されている名称などが該当します。


興味のある方は国税庁法人番号公表サイトなどで調べてみてください。

正式名称以外で広く使われている名称、それが通称です。神社は通称で呼ばれることの方が多いです。もし社号を「神社の呼び方」と広く解釈するなら、複数の社号を持っている神社もあります。例えば、八幡神社はよく「八幡宮」とも呼ばれます。

通称の種類

神社はどのように呼ばれることが多いでしょうか?
独自の視点で分類してみました。

冠称をつけて呼ぶ

同じ名前の神社はたくさんあります。例えば、八幡と付く神社は全国に約8千社。小さな祠も含めると4万社以上あるそうです。そのまま呼ぶと「どこの八幡?」ってなりますよね。だから他の神社と区別するために冠称(頭につける名称)をつけて呼ぶことが多いです。冠称には鎮座している地名、方角(東西南北)など神社にゆかりのある名称が使われます。

  • …八幡、…天満、…稲荷など

昔の名称で呼ぶ

社名が変わってからも、昔の名称で呼ばれ続けている神社はたくさんあります。明治の神仏分離令でも神社の呼び方までは制限しなかったようです。神号を通称にしている神社は古くからそのように呼ばれているのでしょう。特に氏神神社(地元住民によって祀られている神社)では昔の名称が今でも通称としてよく使われているようです。

  • …神、…王、…権現など

愛称・略称で呼ぶ

神社の地元では愛称がよく使われています。愛称は「八幡様」「天神さん」のように神号に対して付けられ、親近感を持って呼ばれていることが多いです。さらに地元民同士の会話で神社を区別する必要のない時などは、神社名は省略されることもあります。

  • …様、…さん、お宮さんなど

その他の社号や神号

社号や神号は他の神社(神様)と区別するために付けられる称号です。


そのため複数の神社がある場合に使われることもあります。

  • 位置関係による称号 
    奥社(奥宮)↔︎本社(本宮)、
    上社(上宮)↔︎下社(下宮)、
    山宮↔︎里宮など
  • 新旧による称号 
    本宮(正宮)↔︎別宮(新宮・今宮・若宮)など
  • 祭神の関係による称号 
    本社↔︎摂社↔︎末社など

春日神社と春日大明神の違い

山階の春日神社では2つの社号をよく目にします。「神社」と「大明神」です。


それぞれ使用状況を調査してみました。

春日神社

昭和から平成にかけて建てられた施設や石碑には「神社」の社号がよく使われています。


また、明治以降に記された書物はすべて「神社」で統一されていました。


登記されている名称も「宗教法人春日神社」でした。

春日大明神

江戸時代に建てられた二の鳥居や幣殿の扁額には「大明神」の社号が使われています。


また、明治以前に記された書物はすべて「大明神」でした。最古の記録は応永21年(1414)です。

「大明神」は明治の神仏分離令で使用を禁止された社号ではありませんが、仏教的な神号として広まっていたため次第に使われなくなったという歴史があります。実際に春日大明神は「春日権現」とも呼ばれ、神仏習合の神様として全国的に信仰を集めていました。

つまり、春日神社と春日大明神の違いを簡単にまとめると、

  • 春日神社 
    明治以降に使われ始めた正式名称(神社のお名前)
  • 春日大明神 
    明治以前の古い名称(神様仏様のお名前)

ということになります。

山階の春日神社では現在でも至る所に卍紋(仏教の印)が見られ、境内に閻魔堂(仏像を祀るお堂)もあることから、仏教色を強く残している神社と言えます。明治の神仏分離令により神社は「春日神社」に改名しましたが、氏子は神様には変わりないとしてそのままお祀りしてきたのでしょう。

祭礼時に境内に立てる幟は「神社」の幟が多いですが、氏子集落に立てる幟はほとんどが「大明神」の幟です。歴史からみれば「神社」よりも「大明神」を使っていた時代の方がはるかに長く、氏子として古い慣習を大切にしてきたことが伺えます。

春日宮

一部では春日宮(カスガノミヤ)という社号も目にします。神社に祀られている神様は春日大明神だけではありません。明治以前に神社全体を指す名称ととして使っていたのでしょう。今でも伝統的な獅子組の幟などに使われています。

また、神社を呼称するときは山階ヤマシナ春日カスガさん」という通称がよく使われます。「山階」とつけるのは春日神社が近隣に複数あるからです。地元では「春日さん(はん)」「お宮さん」などで通っています。

社号に込められているもの

神社の社号は人々の崇敬を集めながら、時代とともに変化しています。


どのように呼ばれているか、呼ばれていたかでその神社がどんな神社か分かることもあります。


社号には神社の歴史人々の信仰心が詰まっています。

みなさんのお近くの神社はどのように呼ばれていますか?


もし変わった社号があればぜひ教えてください。

参考史料

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